女子レスリング金 元木咲良 大会前は重圧でメンタル崩壊、ついこぼした「絶対に言ってはいけないこと」
元木咲良(22) 女子レスリング62キロ級金メダル
日本のお家芸である女子レスリングの金メダル量産の一翼を担った。
グレースジェーコブ・ブレン(ノルウェー)との準決勝では第2ピリオドで2-7と大量リードを許す展開ながら、大技の反り投げから抑え込みでマットに沈めて大逆転でフォール勝ち。2000年シドニー大会のグレコローマンスタイル63キロ級代表(9位)だった父・康年さん(54)が果たせなかったメダルを手にした。
女子レスリングが正式種目に採用されたアテネ大会(当時は63キロ級)で伊調馨が頂点に立って以来、日本勢による同階級6大会連続の金をもたらした元木を所属先の育英大学で直撃した。
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──準決勝は大技での大逆転勝利でした。
「決して狙ったわけではなく、とっさに出た技です。あの場面で4点取られてしまったら2-11と差を広げられてしまいます。試合内容が悪いままフォール負けというのは、情けない。何が何でも逃げようと思い切ってブリッジしたら、大技の反り投げが決まりました」
──第2ピリオドでリードを許した時は負けを覚悟した?
「正直、もう無理だなと思ってました。本当に奇跡が起きたというしかなく、神様のおかげです。女子で反り技を決めた選手はほとんどいないと言われましたが、私も実際に見たことはありませんでした」
──それでも決まったのはレスラーとしての本能ですか?
「うまくハマりましたね。(投げた後に)気付いたら、相手があおむけになっていて、(自分が)上になっていました。『もう、だめだ』『どうしよう、どうしよう』と思っていたので、急に形勢が逆転し、勝敗がひっくり返ったので、びっくりしたのと同時に、安心感が湧いてきました。相手選手は力が強くて正直、もう一度対戦してもしっかりと対策をしなければ勝てる自信はありません。本当にラッキーだったと思います」
──決勝までの勝ち上がりは予定通りでしたか?
「準決勝で強敵のアイスルー・チニベコワ選手(キルギス)が負けたことで動揺してしまい、準決勝は試合への入りが悪くなってしまいました。アイスルー選手は1年間、対戦してきて勝てなかった相手で、彼女を倒すことを目標にやってきました。アイスルー選手も厳しい組み合わせだったので、相性的に1、2回戦で姿を消すかもしれないと予想はしていたんですけど、序盤を勝ち上がれば決勝で対戦するだろうと考えていました。一番の目標としてきたアイスルー選手を倒して金メダルを取りたかったです」
──決勝戦は平常心で臨めましたか?
「決勝は前日の準決勝の試合内容から弱気になってしまいました。弱気になると腰が引けたり、前に出られなくなるので、(育英大監督の)柳川(美麿)先生から試合前に『ケンカだと思ってやれ』とアドバイスされました。強気な姿勢で絶対に勝つという気持ちで臨んだ結果、テクニカルスペリオリティー(10点差)で勝てました」
──日本のお家芸だけに、メダル取りのプレッシャーはありましたか?
「1年間、国際大会で一度も頂点に立っていなかったし、日本の女子は優勝して当たり前という状況の中で、自分は勝てないんじゃないかと。プレッシャーよりも不安でいっぱいでした。精神的に苦しかったです。(23年世界選手権準優勝で)五輪出場が決まってからの約1年間は、マイナスなことばかり考えて気分がめいって話さなくなることもありました」