「里山資本主義」藻谷浩介、NHK広島取材班著
<利益を生んだ岡山のバイオマス発電事業>
聞くだけで危なっかしいアベノミクス騒動を尻目に、いま日本各地でひそかにうごめくのが「里山」を舞台にした新たな経済活動だ。
リーマン・ショックが露呈させた現代資本主義のあまりの脆弱(ぜいじゃく)さ。そして3・11東日本大震災で明らかになったのが「マネー」などいざというときは「何の助けにもならない」という現実。ショックを受けたNHKの若いディレクターたちは、全国をくまなく歩き回るユニークなアナリストに声をかけ、「里山」に息づく未来への知恵を探し始める。その成果が本書だ。
岡山県の山間部にある真庭市は林業が頼りの山村地域。ここにある建材メーカーは自社の製材所をすべて自家発電でまかなう。原料は製材につきものの木くず。年間4万トンにのぼるこれを燃やすバイオマス発電のおかげで年1億円の電気代が浮く。逆に余った電気を電力会社に売電し、この収入が5000万円。木くずを産廃物として処理する費用の年間2億4000万円も不要となるため、全体としては年で4億円も得していることになる。
発電施設の建設には10億円がかかったが、既に14年間の実績で減価償却はとっくに終了。地元自治体の後押しもあって岡山のバイオマス事業はまさに「里山資本主義」の好例になっているのだ。
(角川書店 781円)