正岡子規の青春を描いた最新作が話題 伊集院静氏に聞く
子規の作品を片っ端から読み漁り、より深く知っていくにつれて、彼は現代人が抱いているような悲劇的なイメージとはかけ離れた人物ではないかと、著者は感じるようになったという。
「とにかく、子規の周りには多くの人が集っていた。伊藤左千夫や高浜虚子、長塚節などのちの文学者たちが、“ノボさん”を慕っていたんです。現代では、若くして病に倒れて亡くなったことをクローズアップされていますが、悲哀ばかりが漂う人にこれほど人を引き付ける力があるはずがない。だから、私の正岡子規は、悲しいばかりの人物にはなりませんでした」
やがて子規は大学で、生涯の友となる人物と出会う。彼の名は夏目金之助。のちの漱石である。ふたりは同じ年齢で、共に落語を楽しみ、漱石は子規から俳句を学んでいた。
「本作は、子規と漱石の友情の物語でもあります。私は、日本の近代文学はこのふたりの友情から始まったと思っています。彼らが出会い、影響を受け合い、やがて漱石は小説を書き始める。その作品には、俳句を通して子規から学んだユーモアが生かされています。ふたりは、“親友”という表現では軽いような、お互いを認め合い高め合う素晴らしい関係で、生涯でそのような相手に出会えた彼らを、うらやましくも感じます」