正岡子規の青春を描いた最新作が話題 伊集院静氏に聞く
直木賞作家の伊集院静氏が明治の大文学者・正岡子規を描く「ノボさん」(講談社 1600円)が話題を呼んでいる。俳句や短歌、小説、随筆と幅広い創作活動を行いながら、35歳の若さでその生涯を終えた正岡子規には、“悲劇の人”というイメージがつきまとう。しかし本作で著者は、生きる力と希望に満ちあふれた青年の生きざまを、実にさわやかに描き出している。
「私と正岡子規の最初の出会いは幼少期で、俳句の好きな母にいろいろな句を読んで聞かされて育ちました。その中に、『柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺』というのがあって、しかし当時は“柿を食って鐘が鳴っているから何なんだ?”と、さっぱり意味が分からなかった(笑い)。やがて、学校の教科書で正岡子規という人の俳句を学び、載っていた横顔の写真が強烈に頭に焼きついて、気になる存在になったんです」
物語は、まだ“子規”と名乗る以前の、野球が大好きな21歳の正岡升(のぼる)青年が、大学(東大予備門)で多くの仲間と出会い、語り合い、夢を見つけ、それをなそうと奮闘する青春時代から始まる。
「書き始めたのは3年前からですが、構想は作家になってすぐの頃からありました。当時、明治時代に撮影された野球選手の写真を見る機会があって、そこに写っていたのが子規でした。私もずっと野球をやっていたので、“あの子規も野球をやっていたのか!”とうれしくなった。そこで改めて、彼を題材にして書いてみたいと強く思うようになりました」