「約束の海」山崎豊子著
■戦争しないための軍隊を描いた未完の絶筆
主人公は、海上自衛隊の潜水艦「くにしお」の船務士・花巻朔太郎。幼い頃から海が好きだった彼は、父親が海軍兵学校出身だったというだけで特に思い入れもなく防衛大学校に進学する。
海上自衛隊幹部候補生学校を経て、潜水艦教育訓練隊幹部潜水課程に入校し「くにしお」に実習幹部として配属された。ところが、好きな潜水艦で国の安全を守る使命にやりがいを感じていた矢先、「くにしお」が遊覧船と衝突する事故が起き、多数の死傷者を出してしまう。自衛隊の過失としてマスコミが批判を強めるなか、事故の原因特定と再発防止を目的とした海難審判が始まるのだが……。
本書は、昨年9月に亡くなった著者による長編小説。完成していた第1部に加えて、巻末には第2部「ハワイ編」と第3部「千年の海編」の構想が掲載されている。それによれば、第2部で旧日本海軍の特殊潜航艇に乗り真珠湾で捕虜となった朔太郎の父の秘話が、第3部で中国の原子力潜水艦との攻防戦がつづられるはずだった。著者が描こうとした「戦争をしないための軍隊のあるべき姿」は、未完のまま読者に投げかけられている。