「男と女の江戸川柳」小栗清吾著
■「させろとはあんまり俗な口説きよう」
江戸の庶民たちがなにより貴んだのは粋(いき)と洒落(しやれ)。それが試されるのが下ネタの世界。江戸川柳のなかでも「破礼句(ばれく)」と呼ばれる艶笑ものばかりを集めて解説したのが本書だ。
「木娘はさせそうにしてよしにする」
処女なりに手練手管に長(た)けたさまが目に浮かぶようだ。
「蛸(たこ)の味万民是(これ)を賞玩し」
イチモツに吸いつくタコのような名器。その味をみなが知っているとは……?
「町内で知らぬは亭主ばかりなり」
現代ならさしずめ人妻AVの夫か。それでも、
「宝船皺になるほど女房漕ぎ」
正月2日の姫始めの夜、寝床の下に敷いた縁起物の宝船の絵がシワだらけになるほど励んだ――というわけで、いずれもニヤリとさせる大人のユーモアが持ち味。
あけすけに過ぎれば下品になるばかりだし、単なるダジャレでは江戸っ子の名がすたる。ちなみに本書収録の全720句のうちおよそ半分弱が「誹風末摘花」からの引用。これは破礼句だけを集めて安永5年に発行された貴重な句集だそうだ。