奇想天外の冒険物語 「イベリコ豚を買いに」野地秩嘉氏
「50歳を越えて冒険ってなかなかできないじゃないですか。山は登れないし、マラソンに出ようなんて絶対思わない。でも、豚を買ってハムを作るのならば、自分にもできるんじゃないかなって」
高級食材のイベリコ豚がどうしてこれだけ日本中に流通しているのか。取材はそんな疑問から始まった。スペインへ行ってイベリコ豚を2頭買い、輸入から製品化、販売までを個人でやる。フランス料理のシェフや販売のプロを口説いて、出来上がったスモークハムは完売した。奇想天外。4年がかりのまさに冒険である。
「2010年4月末にスペインに行く段取りをしたのですが、その直前に宮崎県で口蹄疫が発生して。『日本人は来るな』と取材にストップがかかったのです。ウイルスを持ってこられたら困るということなんですが、もう『一生来るな』みたいな言われ方をされて」
やっとのことで受け入れてくれたのが、放牧場のオーナー、レヒーノ氏だった。
「レヒーノ氏はイベリコ豚の純血を守り、イベリコ豚の定義をつくった人なんです。儲けようと思ったら、いろんな豚と掛け合わせて売ったほうが簡単。しかし、それをしないで、手間をかけておいしいものをつくる。そういう人だから、『見たいなら見せてやる』と言ってくれたんですね」