『「自分」の壁』養老孟司著
私たちは、環境から独立した、形ある個体である。私たちは、独自の遺伝子を持つ独自の存在である。そんな思い込みがガラガラと崩れていく。
私たちが自分を個体だと認識しているのは、脳の中に「自己の領域」を決めている部位があるからで、そこが破損すると体の境界が分からなくなるという。
ヒトゲノムの解読が終わり、人間の設計図が明らかになったかと思いきや、遺伝子の30%ほどが、もともとは外部のウイルスだったらしい、ということが分かってきたという。実は、環境と私たちは一心同体。それが自然の本来の姿なのだ。
こうした研究成果は、「自分」「自我」「自意識」を揺るがす。本当の「自分」を見つけ出して個性的に生きたい、などという考え方が、荒唐無稽に見えてくる。
東洋にはもともと「我を消す」思想があった。近代的自我は、明治以降西洋から入ってきた考え方で、日本人にはなじまない。自分探しなんかムダなこと。
「バカの壁」「死の壁」「超バカの壁」に続く「壁」シリーズの最新刊。「自分」を入り口に、原発・エネルギー、政治、がん治療、死、情報過多社会など、テーマは縦横無尽に広がる。