「『大人の歌謡曲』公式ガイドブック」富澤一誠著
先ごろ発売された、1970年前後のヒット曲を集めた5枚組CD「大人の歌謡曲」。“J-POP”でもなく“演歌”でもない、良質な大人の音楽90曲を収録している。
そして、このCDの監修者が90曲について語り下ろしているのが、富澤一誠著「『大人の歌謡曲』公式ガイドブック」だ。各曲の裏話やヒットの背景などについてざっくばらんに語られており、読み進めるほどに懐かしの曲を聴きたくなってくる。
例えば、71年にヒットした尾崎紀世彦の「また逢う日まで」。これは時代の先取りをしたマニフェストソングであると言う。男と女の別れの曲は数あるが、これ以前の曲は演歌の世界で、どうしようもない男が女を捨て、女はさめざめと泣いているパターンがお決まりだった。しかし、70年代に入ると女もりりしくなり、お互いに別れることを納得して“2人で玄関のドアの名前を消す”。発展的解消の先駆けを歌った曲なのだ。
一方、男女の仲を当時の情緒たっぷりに歌いこんでいるのが、かぐや姫の「神田川」だろう。この曲のすごいところが、“やさしさが怖い”という表現だと著者。幸せすぎて怖い、続かないのではないか、という不安が見事に表現されている。今であれば、“やさしくてうれしい”と歌うのが関の山だ。作詞した喜多条忠はラジオの放送作家をしていて、時間をかけずに歌詞を書く人物だったという。この歌詞も、電話口で南こうせつに伝え、それを聞きながらこうせつが5分くらいでメロディーをつけていったというから驚きだ。