「賢者の愛」山田詠美著
真由子は、周りの大人たちに慈しまれ、幸福な少女時代を送っていた。隣に、2つ年下の百合が引っ越してくるまでは。
真由子の父は有能な編集者で、母は医者。離れに間借りしている小説家志望の青年、諒一を「リョウ兄さま」と呼んで慕っていた。百合は成り金だが愛のない家庭から逃れるように、真由子の世界に入り込み、2人は「親友」になる。
真由子が21歳になったとき、百合は諒一の子を妊娠したことを告白し、真由子に言う。「リョウ兄さまを私にちょうだい」。真由子は、百合への復讐を決意する。
山田詠美の最新長編は、谷崎潤一郎の「痴人の愛」の向こうを張った愛憎劇。百合が産んだ男の子は真由子の助言で直巳(ナオミ)と名づけられる。「このナオミは、痴人のものではなく、賢者のものになる」。真由子は直巳を理想の男に育て上げるべく、幼いうちから丹念に水をやり続ける。年の離れた2人の関係は先生と教え子のようであり、共犯者のようでもあった。「痴人の愛」では、年上の男が美少女ナオミを自分好みの女に仕立てあげようとして、怪物をつくり出してしまった。さて、「賢者」真由子の怪しく危うい復讐劇を待ち受けている結末は?