「東京ブラックアウト」若杉冽著
物語は、福島の原子力発電所事故から3年以上経過した東京から始まる。原子力規制庁の守下靖は、毎週金曜日夕刻に行われる脱原発デモを横目に、内閣府本庁ビルに向かった。目的は、原発事故の避難計画に関してどこが汚れ仕事を引き受けるかを話し合うため。関係各省庁の駆け引きや出世への打算が渦巻くなか、どこも責任をとらなくていい形が整えられていった結果、ついに全国で15基の原発が再稼働された。ところがその年の暮れ、送電線鉄塔の倒壊が勃発。大規模停電が発生したため、原子炉の冷却システムも停止し、再びメルトダウンが起こる。役に立つはずもない避難計画を前に、原発の地元に、さらには大都市の住民に何が生じるのか――。
「原発ホワイトアウト」を書いた現役キャリア官僚による最新作。小説という形をとりつつも、再稼働を画策する省庁の人間たちがどのように動き、その結果どんな未来が予想しうるのか、恐ろしくもリアルに描き出している。(講談社 1600円+税)