「千日のマリア」小池真理子著
短編の名手として知られる著者が、9年の歳月をかけてつづった珠玉の最新短編集。収録されているのは、「過ぎし者の標」「つづれ織り」「落花生を食べる女」「修羅のあとさき」「常夜」「テンと月」「千日のマリア」「凪の光」の8編。各短編には、心を寄せていた男を自殺で失った女、亡き母の秘密の恋を知った娘、父親の愛人に恋心を抱いた男、振った女が20年前のまま妄想の中で自分を待っていることを知った男、離婚した夫の訃報を聞いた女、夫が残した田舎のペンションを閉め東京に戻る決心をした女、高校の同級生と再会した女、などが登場する。
表題作「千日のマリア」は、義母の起こした車の事故で、左手首から先を切断した男・秀平が主人公。自暴自棄になり、義母にわがままを尽くしたあげく許されざる関係を結ぶが、なぜそこで救いを得て人生をやり直すことになったかの経緯を、義母の葬儀の日に回想するという物語だ。死ぬまでの時間の中で、遭遇したやるせない出来事を、人はどのようにしのいで生きていくのか。大人の男と女が心の中に密かに抱えている思いを優しく見せてくれる。(講談社 1500円+税)