「精鋭」今野敏著
新人警察官、柿田亮は交番勤務。酔っぱらい、風営法違反の店、捨て猫、痴漢などへの対応に悪戦苦闘している。大学時代、ラグビー部で鍛えた体育会系。市民とかかわる中で、法律と社会常識、警察官の義務と個人の感情の狭間で判断に悩み、あれこれ考えてしまう真面目な青年でもある。
走力を買われて警視庁の駅伝大会に出場したときは、ムチャクチャな走りで何とかタスキをつなぎ、そのまま失神するほどのガッツを見せた。
そんな柿田は、上司のすすめで機動隊を志望、厳しい訓練の日々に突入する。柔道の朝練、完全装備での訓練に加えて、苦手な射撃を克服するために近代五種部にまで入部する。
つらいことだって「どうってことないよ」と思えばできる。のんきでどこまでも前向き。がむしゃらに訓練についていき、機動隊の中の特殊急襲部隊SATの訓練生になっていた。
朝日新聞の連載をまとめた長編小説。切磋琢磨しながら精鋭を目指す若き警察官たちが、心身ともに成長していく姿が爽やかだ。
殺人事件もテロ事件も起こらないが、訓練の仕組みや方法が詳細。さらには自衛隊と警察の本質的な違いにまで迫っていく。警察小説の名手が開いた新境地。