まず手を洗い、正座して深呼吸
「夜の木」バッジュ・シャームほか著、青木恵都訳
かねて話題の書。品切れが続いていた。時期が良かったせいか、ネット書店を通して入手、やっと実物に触ることができた。
中央インド出身、ゴンド民族の3人のアーティストによる美術書。木に宿る精霊の物語集である。その画風、自由闊達。黒をバックに精緻かつ伸びやかな線で描かれ、絵画の見応え、丁寧な造本、一冊ずつ記されたシリアル番号を思うと、絵本ではなく「画集」と呼ぶにふさわしい。本好きにはたまらない、所有欲をくすぐる仕上がりだ。現在第4刷。増刷のたびに表紙の絵柄が変わるのも魅力。熱烈なコレクターもいると聞く。ちなみに日本語版もインドで制作されている。
ぞんざいな扱いは失礼と、まず手を洗う。正座して深呼吸、おずおずとビニール袋から本体を取り出せば、せっけんや「お香」を思わせる香りが鼻を突く。
エスニックで強烈な香りに酔いながら、ページをめくりゆく幸福感。全ページが黒い特殊紙と気づく。手すきの紙で配合も独特、目を凝らすとページごとにムラ、キズ、ゴミがある。しかしそれらが「一点もの」の魅力に一役買っている。