まず手を洗い、正座して深呼吸
ノイズだらけの漆黒の本文用紙は、熱帯アジアの濃密な夜の象徴だ。その上に毛髪よりも細い線が(触ると分かるほどに)くっきりと刷られ、繊細さに思わずしばし見入ってしまう。全ページ、シルクスクリーンでの印刷。インキを「厚盛り」できるため、紙の黒地の影響を受けず、インキの色そのものが鮮明に立ち上ってくる。2~3色刷りゆえ、工程を考えると気が遠くなる。が、版ズレも少なくまさに職人技、「良い加減」な精度は味わいすら感じさせ、驚くばかりである。
……と、全工程が手作業の賜物。「本」といえば大量消費用の工業製品が多いなか、かぐわしい香りをプンプンさせる少量生産の「手工芸品」を見ると、「ハッ」とさせられ、同時にうらやましくも思う。インドの「本気の丹精」を見せつけられた気分だ。(タムラ堂 3200円+税)
▽みやぎ・あずさ 工作舎アートディレクター。1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。