「鬼忘島」江上剛著
ある日、ジャパン・イノベーション・バンク(JIB)の金庫番・国仲真一専務が失踪した。妻子と別れてひとり暮らしをしていたアパートの一室から、こつ然と姿を消したのだ。
同社の坂巻健史会長との不仲説もささやかれる中、消されたのではないかという噂も流れていたが、国仲は会社の極秘情報が入ったUSBを手に、紙一重のところで沖縄の離島・鬼忘島へ飛んでいた。秘密の漏洩を恐れる坂巻と、坂巻を操っている暴力団は、国仲の命を狙って島へとやってくる。
一方、JIBの怪しい動きを察知した金融庁の捜査官・伊地知耕介も島へと向かう。穏やかな南の島を舞台に、男たちの死闘が始まった……。
金融の世界にうごめく裏社会と、その泥沼の中でも銀行の使命を果たしたいと願う男の闘いを描いた金融サスペンス。一度マネーロンダリングに手を染めてしまった男が、島の人々との魂を揺さぶる交流がきっかけで、家族への愛を支えにして正義に生きようとする姿に、手に汗を握る。(新潮社1600円+税)