「長いお別れ」中島京子著
中学校の校長や図書館館長を勤め上げ、悠々自適の老後を送っていた東昇平(ひがししょうへい)は、ある日同窓会に行こうとして家を出たものの途中で目的を忘れ家に戻ってきた。
異変を感じた妻・曜子は、昇平をものわすれ外来に連れて行き、初期のアルツハイマー型認知症が発覚。それから3年、曜子は昇平の誕生日会を口実に、サンフランシスコ在住の長女の茉莉、子育て中の次女の菜奈、フードコーディネーターで独身の三女・芙美に同時に招集をかける。そこで3姉妹が見た父親の日常は、ただの記憶違いの域を越えた、遊園地での迷子、雑紙のコレクション、時々奇跡的に成立する会話、消える入れ歯など、まるで喜劇のような予測不能な出来事に満ちていた……。
家族への愛着を残したまま記憶だけを少しずつ失い死へと向かっていく「長いお別れ」のような病気、認知症。そんな病を患った父親と家族の10年間の愛と奮闘の物語を、温かな目線で丁寧に描いている。
(文藝春秋 1550円+税)