「戦場カメラマン沢田教一の眼」斉藤光政・編集 沢田タカ・協力
戦火に追われた母子が胸まで水につかりながら必死の形相で川を渡ろうとしている姿を撮影した一枚の写真。ベトナム戦争の実情を凝縮した「安全への逃避」と題されたこの報道写真で、ジャーナリズムの最高峰ピュリツァー賞を受賞した戦場カメラマン、沢田教一の作品を集大成した写真集である。
青森県・三沢の米軍基地内にある写真店で働いていた沢田は、プロカメラマンを志し上京。知人の紹介で運よくアメリカの通信社の東京支局に入社するが、1965年、休職して自費でベトナムへと旅立つ。
「安全への逃避」の他にも、ベトコン(南ベトナム解放民族戦線)兵士の遺体を戦果として引きずる米軍の装甲車を撮影した「泥まみれの死」などの代表作をはじめ、ベトコンの疑いをかけられ銃を向けられて命乞いする老婆や、ジャングルでの緊迫した戦いの様子、そして報道陣の中で一番乗りを果たし、海兵隊員すらその激しい肉弾戦に怯え泣き叫んだという古都フエでの攻防戦を撮影した一連の写真など。白黒で伝えられた戦場の現実は、命のやりとりが行われている現場のギリギリとした緊張感に満ちている。