「京の暖簾と看板」竹本大亀著 渡部巌写真
人の顔にも例えられる暖簾や看板には、その店が積み重ねてきた歴史と、培ってきた風格がにじみ出る。本書は、老舗が軒を連ねる京都の街を彩る暖簾や看板を並べた写真集。
まずは料理屋。
宮中や宮家に料理を供する西陣の有職料理の老舗「萬亀楼」の暖簾は、白無地の麻暖簾に魚紋を模して屋号が墨書されており、シンプルでありながら、凝った意匠で格式の高さを感じさせる。かと思えば、窯焼き料理の「エンボカ 京都」の大ぶりの長暖簾は、茶鼠の渋い生地に地紋のように小さなロゴを配し、さらにその上に大きく赤でロゴを描き「伝統と斬新の共存」に挑む。
その他、屋号の二字を鶴になぞらえて作り上げた独特の意匠を染めた「本家 たん熊本店」の暖簾や、真っ白な木綿の五幅の暖簾の真ん中に屋号だけが縦書きされた素朴さが潔い鯖姿寿司の「いづう」、「梅枝丸」の家紋が描かれた幔幕とその奥に下げられた暖簾が心地よいリズムを作りだす京料理「高台寺 土井」など。
こうしてみると、店と路地との間を隔てる結界のような一枚の布が、実に多くのことを表現していることに気づく。