「戦場カメラマン沢田教一の眼」斉藤光政・編集 沢田タカ・協力
早朝、突撃命令が下り突進する兵を追った写真は、敵の砲弾で地面が絶え間なく揺れているため、ぶれているが、それゆえに戦闘の激しさを見る者に体感させる。
こうした最前線での取材の合間、沢田のカメラは、戦地に暮らす住民たちにも向けられる。廃虚と化した街中でこぼれ落ちた米をすくいあげる少女や、強制退避させられた一家の荷物を小さな体で運ぶ少女、戦火の中で学ぶ子供たちなど戦場の日常を切り取る。
当時、ベトナムには世界中から600人以上のカメラマンが集まっていた。その中でも、沢田の写真が高く評価されたのは、彼には何より「ベトナムの人々に対する同じアジア人としての共感があった」(編者・斉藤氏)からだという。
白黒写真で知られる沢田だが、サイゴンに向かう機中から撮影したメコン川や、ベトナムを一時離れてアジア各地を精力的に取材した折のアンコールワットなどの遺跡や、シンガポールの街角で見かけ思わずシャッターを切ったと思われる女性、そして故郷に重ね合わせてこよなく愛したインドシナの田園風景などのカラー写真も多数収録。さらに、故郷の岩木山をはじめ、修業時代に青森各地の風物を撮影した貴重な未公開写真と、斉藤氏による評伝も添えられる。ベトナム戦争終結40年に合わせての刊行だが、戦場に散った孤高のカメラマンの作品は、単なる歴史の記録ではなく、戦争とは何かという切実なる問いを見る者に突き付けてくる。(山川出版社 2500円+税)