「玉の井という街があった」前田豊著
隅田川の東隅にかつてあった私娼街「玉の井」と、そこに生きた人々の姿を記録したエッセーの復刻版(1986年刊)。
玉の井のはじまりは、大正12年の関東大震災で焼け出され浅草から移住してきた銘酒屋街。昭和20年3月の大空襲で焼失するまでわずか20余年の歴史しかない。隅田川を挟んだ公娼街「吉原」とは対照的に、みすぼらしい二階屋が並ぶその街は、路地が入り組み、一度足を踏み入れると容易には出られない迷路のようだったという。女性たちが小窓から路地を行き交う男たちを誘うその風景から、街に通った有名人たちのエピソードまで、自らの体験と取材をもとに、よく知られていないその実像を描き出す。
(筑摩書房 800円+税)