【特別編】首相の背後霊の悪を見極める必要
「満州裏史」太田尚樹著 講談社文庫
安倍晋三の祖父で、その背後霊ともいうべき岸信介の悪さが忘れられている。それは不気味な輝きさえ持つ悪さであり、旧満州国に集約される。俗に「2キ3スケ」といい、東条英機、星野直樹の2キと、松岡洋右、鮎川義介、そして岸信介の3スケが中心となって大日本帝国のカイライである満州国を牛耳っていたといわれるが、当然、東条らと共にA級の戦争犯罪人となるべきなのに、敗戦近くなって東条と衝突したために、それを免れ、ついには首相になってしまった岸の悪辣さを、いま改めて問題にしなければならない。
「満州裏史」は、そのための必読書。この本は岸と甘粕正彦の出会いの場面から始まる。甘粕は関東大震災の時に無政府主義者の大杉栄らを暗殺した犯人とされるが、実は甘粕がその罪を背負ったので、だから軍首脳は甘粕を満州に逃がし、さまざまな裏工作に当たらせる。中国との戦争を始めさせる特務工作であったり、アヘンの密売などを担当させたのである。
「満州裏史」はつながりの深かった岸と甘粕の物語だが、もうひとり、トリオというほど親しかったのが東条だった。