「この君なくば」葉室麟著
日向の小藩・伍代藩で私塾「此君堂」を開いていた国学者、鉄斎の娘・栞は、父亡きあと門弟の譲に和歌の指導を続けていた。鉄斎は娘の思いをくみ、栞をいずれ譲の嫁にと考えていたようだが、藩主・忠継の意向で譲は名家の三女由里を嫁に迎える。
しかし、由里が幼い一人娘を残して早逝。秘めたる思いを胸に、譲に和歌の指導を続ける栞だが、藩内の尊王攘夷派の動きを耳にするにつけ、開国派と思われている譲の身辺を心配する。さらに譲に由里の妹・五十鈴との再婚話が持ち上がっていることを知り、栞の心は乱れる。文久2(1862)年、譲は忠継の密命を受け京に向かう。
名手が幕末の騒乱を生きる男女の思いを描いた時代長編。(朝日新聞出版 620円+税)