「山水の飄客前田普羅」正津勉著
明治生まれの俳人、前田普羅は13歳のとき、両親が台湾に渡ったため、親戚に預けられる。母は3年後に死亡、寂しい少年時代を送った普羅は、俳句を詠むようになった。
俳句を詠んでいると、山中を歩くときに何かを与えられるのと同じような境地になれた。やがて志賀重昂の「日本風景論」に出合い、山へ行くようになる。だが、頂に登るのでなく、甲斐の渓谷を歩いた。〈春尽きて山みな甲斐に走りけり〉。彼は人の世をのがれて山に行くのではなく、「人の中にモッと、安住の地を探す」ために渓谷を散策したのだ。
高浜虚子の弟子であり、山岳俳句の第一人者だった前田普羅の作品の世界に迫る。(アーツアンドクラフツ 1800円+税)