がんになった時どう対処するか考え方が変わった
「がん患者よ、近藤誠を疑え」近藤誠著/日本文芸社
国民の2人に1人がかかると言われるがんは、ある意味で最も身近にある病気だ。そのがん治療の世界で、「がんと闘うな」と言い続けている近藤誠医師は、特異な存在だ。その近藤誠医師の最新著が「がん患者よ、近藤誠を疑え」という刺激的なタイトルなのだ。
自己否定しているのではない。がんと向き合うときには、複数の意見を聞いて、自分の頭で考えて、対処の仕方を決めなさいということなのだ。だから本書で述べられている著者の意見は、一つの考え方との位置づけだ。
本書のもう一つの特徴は、ジャーナリストの森省歩氏によるインタビューの形式を採っていることだ。私は、何度も取材されたことがあるので分かるのだが、森氏は非常に優秀なジャーナリストだ。その森氏が4年前に大腸がんになり、手術を受けた。ジャーナリストだから、そのとき相当勉強したのだろう。患者代表として、著者に話を聞く体裁になってはいるのだが、その質問は、かなり専門的で、核心をついている。それに対して著者も明快な回答で応じている。例えば、乳がんで乳房を切除した北斗晶さんも、切除の必要はなかったのではないかという大胆な意見さえ言っているのだ。
正直言うと、本書を読んだあと、私は心の整理がつかないでいる。がんには、もどきと本物があり、もどきは放っておいて問題はないし、本物のがんは、すぐに転移するので、手術をしても意味がない。むしろ手術がきっかけで臓器を傷つけたり、がんが暴走する可能性がある。そうした著者の主張には、裏付けとなるデータもある。
ただ、その一方で、私のまわりにいるすべての医師が、がんへの対処は、早期発見早期治療だと口をそろえているのだ。彼らが全員うそつきだとは、私には到底思えない。
ただ、本書を読んで確実に変わったことがある。それは、もし自分ががんになったら、医師の言うがままに治療を受けるのではなく、自ら対処法を徹底的に調べて、考えるだろうということだ。
私は5年前に父をがんで失ったが、手術を受けた後の父の苦しみは、筆舌に尽くしがたいものだった。あの時にこの本があったらと、いま思う。
★★★(選者・森永卓郎)