「東京建築さんぽマップ」松田力著
名建築を愛でる都内の散歩50ルートを紹介
近代建築の巨匠、ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館(1959年)が世界遺産に登録される見通しとなったというニュースに、日本中が沸いた。欧米の歴史ある都市に比べると、スクラップ・アンド・ビルドが激しく、薄っぺらな街並みに感じられる東京だが、探してみると、世界に誇れる建築物はまだまだたくさんあるのだ。本書は、明治・大正・昭和に建設された近代建築物を中心に、名建築に出合える東京の散歩ルートを紹介するガイドブック。
例えば、国立西洋美術館も含む上野公園ルートは、JR上野駅公園口から東京芸術大学に向かう。歩き始めてすぐに現れる音楽の殿堂「東京文化会館」(1961年)は、実はル・コルビュジエの一番弟子である前川國男の設計で、師弟競演が楽しめるのだ。
このルートは他にも、ともに重要文化財の国立科学博物館(1931年)や東京国立博物館本館(1938年)をはじめ、関東大震災も生き延びたレンガ組み石造りの東京芸術大学赤レンガ館(1880年)、そして明治期洋風建築の代表作のひとつ「国際子ども図書館」(1906年)と重厚な建築物がずらり。
上野のもうひとつのルート「岩崎邸ルート」のハイライトは、「旧岩崎久彌邸」(1896年)。日本の建築文化の礎を築いた英国人のジョサイア・コンドルの設計した木造2階建ての屋敷は、竣工当時そのままの威厳と美しさを保っている。
都心ばかりでなく、緑も豊かな吉祥寺・三鷹台ルートでは、日本のモダニズム建築を牽引したアントニン・レーモンドの設計した建物がいくつも残る東京女子大をはじめ、3つの学校を巡る。
こうした有名、公共建築物の合間に、建築家東孝光が設計した打ち放しコンクリート・狭小住宅(建坪6坪)の先駆けである個人邸「塔の家」(1966年、青山ルート)や、明治初期に建てられた今も現役のお米屋さん「伊勢五」(茗荷谷・千石ルート)、旅館というよりは旅籠屋と呼ぶのがふさわしい「鳳明館本館」(建築年・設計者不明、本郷・白山ルート)、皇居のお堀端にある「祝田町見張所」(建築年・設計者不明、日比谷・有楽町ルート)など、町にひっそりとたたずむお薦め建築物件も多数網羅しながら、全19エリア、50ルートで約500物件を案内。
1ルートあたり約4キロ、1時間で10前後の名建築物に出合えるよう設定されており、散歩目当てはもちろん、お出かけのついでに足を延ばしてみるのも楽しそう。安上がりに東京を満喫できるお薦めガイドだ。(エクスナレッジ 1500円+税)