「いのちの旅『水俣学』への軌跡」原田正純著
長年、水俣病患者に寄り添ってきた医師(2012年没)によるエッセー集。
水俣病は、実に巨大な奥深い事件で「水俣病に映してみると世の中のさまざまなことが見えてくる」という。ゆえに、これからも研究を多角的に続け、将来に生かすべく「水俣学」を提唱し、その内容はどうあるべきか道を示す。さらに、大学病院の医師として患者を訪ねた折、検診を拒否することで「治らない病気を前にしたとき先生たちになにができるのですか」と無言の問いを突き付けられたという。
自らの医学の原点をはじめ、患者たちの暮らしと戦い、国の政策への批判、海外の公害などをつづり、水俣病が決して特殊な事件ではなく、将来も起こりうる事件であると警告する。(岩波書店 860円+税)