「上野アンダーグラウンド」本橋信宏著
江戸時代から現代にかけて、多くの人を引き付ける吸引力を持った町・上野。博物館や大学がある芸術や文化の聖地としての側面を持つ一方、社会の変動期におけるホームレスや浮浪児の居場所でもあり、都下有数のラブホテル街や風俗街が隣接する場でもある。本書は、そんなカオスな町・上野の不思議な魅力に迫ったルポルタージュだ。
台東区に位置する上野は、今や1日約18万2000人もの乗客数を数える上野駅を有し、東北・北関東の玄関口としての役割を果たしているが、地形的には上野台地と下町低地に二分されており、縄文時代には上野のすぐ目の前が海だった。そんな昔の水の流れの記憶をなぞるかのように、さまざまな人が上野に流れつく。長年上野とは縁の深かった著者は、西郷さんの銅像前で待ち合わせをして大人の関係を楽しむ人妻、淫靡なアジアエステ界の住人、真夜中の摺鉢山古墳に集う男色たち、路上の似顔絵師や占い師、日雇い作業員をスカウトする手配師などと出会う。
緻密な取材を通して、表面的な「聖」なる顔と混然一体になった上野の「俗」なる顔がリアルに浮かび上がってくる。
(駒草出版 1500円+税)