雇用が守られるのはたったの1割
「人工知能と経済の未来」井上智洋著(文春新書)
今後の経済社会を一番大きく変えるのが、人工知能であることは、間違いないだろう。何しろ、我々の知能をコンピューターが置き換えてしまうのだから、その影響は計り知れない。そのため、人工知能が人間の仕事を完全に奪ってしまうとか、人工知能が人類を支配するようになるといった極端な話が、まことしやかに広まっている。
本書はそうした極論とは一線を画し、学者らしい丁寧な分析を積み重ねている。これまでの技術革新の歴史を振り返り、人工知能の技術や既存分析を踏まえて、人工知能が及ぼす影響を客観的に整理しているのだ。
著者は、現実性のある人工知能を、特定の機能に限定された特化型AIとあらゆる事態に対応する汎用AIに分けている。そして、特化型AIを、現在進行中の第三の産業革命、すなわちマイクロエレクトロニクス革命の末端に位置付けている。ただし、この段階でも、人工知能は市場創出効果を労働節約効果が上回るため、失業を増やすだろうとしている。だから、需要を増やすための景気対策、特に財政政策よりも金融緩和が重要だとしている。これは、経済学者の主流の考えとは異なるが、私は正しいと思う。
一方、汎用AIが普及する2045年ころになると、人工知能が圧倒的に雇用を代替し、生き残れるのは、①クリエーティブな仕事、②マネジメントの仕事、③介護などのホスピタリティーの仕事だけになる。しかも、これらの仕事も、AIと競合する部分があるので、雇用が守られるのは、全体のたった1割というショッキングな予測をしているのだ。
生産活動は人工知能とロボットが行うため、所得は生産設備を持つ資本家に集中する一方で、大部分の国民は仕事も所得も失う。そうした未来に著者は、すべての国民に政府が一律の資金を給付するベーシックインカム制度を導入すべきだとしている。恐ろしい未来にみえるかもしれないが、私はさほど怖い未来ではないと思う。芸能界はいまでもそうなっている。ベーシックインカムが、大物芸能人のおごりになっているだけだ。売れない芸人は所得がゼロでも売れている先輩芸人のおごりで食いつないでいる。国民の大部分が売れない芸人になるが、それはそれで、よいのではないだろうか。
★★半(選者・森永卓郎)