社会の標準からずれると生きにくい日本の現状
「コンビニ人間」村田沙耶香著 文藝春秋 2016年7月
とてもユニークな小説だ。主人公の古倉恵子は、子どもの頃から少し変わっていた。公園で死んだ小鳥のお墓を作ろうと周囲の子どもたちが話していても、恵子は、焼き鳥にしようと主張する。
さらにこんなこともあった。
〈小学校に入ったばかりの時、体育の時間、男子が取っ組み合いのけんかをして騒ぎになったことがあった。
「誰か先生呼んできて!」
「誰か止めて!」
悲鳴があがり、そうか、止めるのか、と思った私は、そばにあった用具入れをあけ、中にあったスコップを取り出して暴れる男子のところに走って行き、その頭を殴った。
周囲は絶叫に包まれ、男子は頭を押さえてその場にすっ転んだ。頭を押さえたまま動きが止まったのを見て、もう一人の男子の活動も止めようと思い、そちらにもスコップを振り上げると、
「恵子ちゃん、やめて! やめて!」
と女の子たちが泣きながら叫んだ。
走ってきて、惨状を見た先生たちは仰天し、私に説明を求めた。
「止めろと言われたから、一番早そうな方法で止めました」
先生は戸惑った様子で、暴力は駄目だとしどろもどろになった。〉
他の人と少し変わった性格はそのままで恵子は成長し、大学1年生の18歳のときから36歳になる現在まで、コンビニ店員として働いている。店内に生じるちょっとした音の変化で恵子は客の動きを正確に読むことができる。あるときこのコンビニで、自己の能力を過大評価し、周囲を見下す白羽という男がアルバイトを始める。社会人としての適性に欠ける白羽はすぐにコンビニを辞める。偶然、恵子は白羽と街で遭遇し、2人は同棲を始める。恵子はコンビニをやめて別の職を探そうとする。
こういう2人に周囲は冷たい。白羽の義姉から恵子は電話で、〈バイトと無職で、子供作ってどうするんですか。ほんとにやめてください。あんたらみたいな遺伝子残さないでください、それが一番人類のためですんで〉と詰られる。
社会の標準から少しずれるととても生きにくくなる日本の現状を見事に表現している。★★★(選者・佐藤優)