「旅芸人のいた風景」沖浦和光著
日本の文化の基層をなし、民俗を豊かにしてきた「遊芸民」をテーマにした民衆文化論。
近世、民衆社会に溶け込んでいた遊行者や遊芸民の多くは、家内安全・五穀豊穣・商売繁盛の予祝祈願、災いを除去する加持祈祷、占いなどの儀礼で生活していた。明治維新後、彼らは抑圧され次第に姿を消していったが、それでも著者が少年時代を過ごした昭和前期は、新春にはどこからともなく、門付け芸人がやって来たという。近世後期の資料によれば、京都・大坂・江戸だけで、門付け芸や大道芸は300種に及んだそうだ。彼ら遊芸民の多くは被差別民層だった。そうした遊芸民が、民間信仰や祭祀儀礼の歴史の中で果たしてきた役割を考察する。(河出書房新社 740円+税)