「四百三十円の神様」加藤元著
牛丼屋のバイトの岩田は、西崎の代わりにシフトに入った。すると派手な女が入ってきて「西崎、いるでしょう?」。西崎が彼女の財布を持っていってしまったため、昨日から何も食べていないと言う。テーブル席で日本酒を飲んでいた中年の男が、同情しておごってくれた。牛丼並と生卵で430円。「神様みたいな人だわ」という言葉に、岩田は元野球選手の父と同じポジションだったショートの選手を思い出した。父は「あいつは野球の神様に愛されているんだ」と言っていた。ある日、連れの女が投げた携帯電話を腰を落として受け取る中年男の姿に、岩田ははっとした。(表題作)
心に灯をともしてくれる7編の短編。(講談社1500円+税)