「人の樹」村田喜代子著
10万年も昔からサバンナに生えていたアカシアは、強烈な紫外線で仲間を失い、たった一本生き残った。砂丘を越えて転がってきた草の玉、タンブルウィードは「ずうっとここに張り付いているのね」とあざわらった。アカシアの根元が干からびかけた頃、瀕死のスナネズミが木陰にたどり着いて「あたしには帰る所がない」と言う。アカシアは「わたしの足元でお眠り」と言い、ネズミが死んだ後、その亡きがらを根で優しく巻いてやった。そして根の先でネズミの体液を吸った。何百年ぶりにありついた貴重な養分だった。(「孤独のレッスン」)
樹を主役に不思議な物語が展開する18編の短編集。(潮出版社 1800円+税)