「孤独のグルメ」原作者による食のこだわりネタばらし
「ひとり飲み飯 肴かな」久住昌之著(日本文芸社 670円+税)
ドラマ化もされた「孤独のグルメ」「食の軍師」、そして「花のズボラ飯」など、数々の「食漫画」の原作者である著者によるエッセー。
「食の軍師」は、主人公・本郷が「城」と称する飲食店を制圧(食事をする)ことを目指す。どのような組み合わせ、順番で食べ、どんな酒を合わせるかが理想の「陣立て」であり「戦略」であるかを、一人悶々としながら考えるも、毎回見事な陣を敷くライバル・力石に負けることが多い。
それこそ、崎陽軒の「シウマイ弁当」はシューマイを一気に5個続けて食べるか、否、シューマイと他のおかずを交互に食べるべきか、干しアンズを食べるタイミングはいつか、と逡巡しながら力石との優劣を比較していく。
「メシなんて、とにかくガーッと食えりゃいいんだよ」なんて思う人にとってはどうでもいい漫画だろうが、一食一食を慈しみたい人にとっては腑に落ちるところの多い漫画だろう。
のっけから別の書籍の話に入ったが、「食の軍師」に出てくるみみっちいこだわりは一体どこから出てくるのかと以前から不思議だったのだが、本書を読むとよくわかる。久住氏にとっての「陣立て」「戦略」が本書でまとめられているのだ。
たとえば、「おでんdeカップ酒」には以下の記述がある。
〈まずは「大根」「はんぺん」「がんもどき」に「タコ」でどうだ。この四品で第一陣。この布陣はいかに〉
そして、第二陣は「こんにゃく・玉子・昆布・ちくわぶ」で、第三陣が「シラタキ・牛スジ・ゴボウ天・ちくわ」となっている。実はこの展開、どこかで見たかと思えば「食の軍師」第1話に登場するオデンダネとかなりかぶっているのである。力石はカップ酒を飲み、まずは「大根・こんにゃく・ゴボウ巻」を注文したが、これを「大根三形」と本郷は名づけ、それに対抗すべく「はんぺん・玉子・ちくわぶ」の「白三形の陣」で対抗する。ちくわぶについて本郷は「そしてこの東京人の誇り『ちくわぶ』が王者の後を固める」と言うが、本書では「ちくわぶは、関東ローカルダネ。東京人の心意気よ」と書かれる。
久住氏のかかわる漫画の一種のネタばらしのようなエッセー本になっているほか、スーパーの安い680円の寿司には、味噌汁に納豆を入れた「納豆汁」が合い、さらには3杯目からは「食べるラー油」を入れることを推奨するなど、徹頭徹尾高級品は出てこず、身近な食の工夫を教えてくれる点もありがたい。
★★(選者・中川淳一郎)