「日本のブックカバー」書皮友好協会監修
書店で本を購入したときにかけてくれる紙のカバー。日本独自の書店カルチャーといわれるこのカバーを「書皮」と名付けて、こよなく愛する人々のコレクションを紹介しながら、その魅力を紹介するビジュアルブック。
もともとは包装紙から発展して、今の形に落ち着いたと思われる書皮は、いわば店の顔であり、客に持ち歩いてもらうことによる宣伝効果も狙っている。ゆえに、書店ごとに独自の意匠が凝らされた書皮には、文化の担い手の一員としての書店主たちの決意や意気込みが込められている。
日本橋に店を構える「タロー書房」では、巨匠・岡本太郎氏に書いてもらった表看板用のロゴを書皮にも起用、さらにデザインは鉄道関連の仕事で名を馳せる水戸岡鋭治氏が手掛けた一枚で、一幅の絵画としても十分に鑑賞に堪えられる。同店では過去にもアンリ・マチスの版画やフランスの銅版画家による蔵書票を用いた書皮を提供しており、愛好家ならずともコレクション心をくすぐられる。
茨城県鉾田市の「BOOKSましこ」の書皮は、同県在住の版画家谷田川卓氏によるもので、女性の顔が4つ大胆にデザインされており、現代アートのたたずまい。
普段は本のサイズに折りたたまれ、その一部しか目にしていない書皮も、こうして広げて眺めていると、そこには小宇宙が広がっている。
一方、新潟県新潟市の「本の店 英進堂」が創業50周年を記念して作ったそれには、往時の店舗の写真が使われている。長屋風の一角にある店の2階の軒には大根が干されており、当時の空気感が伝わってくる。さらに6店(現在は1店のみ)もが営業していた最盛期のころの市内のマップを写真に重ねて、店の歩みを記録する。
広島県庄原市の「ウィー東城店」は、3部作すべてがそろうと東城町の街並みが浮かび上がる仕掛け。いずれも、地域に密着した店ならではの書皮だ。
その他、民営化を記念して日本郵便と丸善(現・丸善ジュンク堂書店)がコラボした切手をモチーフにしたゴージャスなモノから、鉄道本を買った人のために地下鉄の最寄り駅の時刻表をデザインした東京都千代田区の「書泉」のカバーなど、イベントやフェアのために作られた入手困難なものも含め、約350枚もの書皮が一堂に並ぶ。
書皮を求めて全国2000店もの書店を巡ったというコレクターらのエッセーや、書店の個性を打ち出すために地元在住で当時駆け出しだったイラストレーターのキン・シオタニ氏を起用したという吉祥寺の書店「BOOKS ルーエ」の店主へのインタビューなど読み物も充実。
見知らぬ町の書店の斬新な書皮に見とれたり、お馴染みの店の慣れ親しんだ書皮を見つけて何となく誇らしくなったりと、本好きならば絶対に楽しめるお薦め本。(グラフィック社 2300円+税)