「世界の文豪の家」阿部公彦ほか監修
文豪たちが暮らし、不朽の名作の生誕地となった場所を紹介するビジュアル文学ガイド。
世界中の人々に長年にわたって作品が読み継がれる文豪は、住んだ家も想像通りの豪邸。アメリカ近代文学の父といわれるマーク・トウェインが、有名建築家に設計を依頼したコネティカット州ハートフォードのヌークファームの邸宅は、先住民族の伝統的なデザインを取り入れたような外観が蒸気船を想起させ、内部は25もの部屋があり、その内装は芸術家としても活躍したティファニーの2代目が手掛けたという。トウェインはここを拠点に「トム・ソーヤーの冒険」や「ハックルベリー・フィンの冒険」など数々の名作を執筆。さらに毎夏、ニューヨーク郊外の農場で過ごしていたトウェインのために、敷地内に義姉夫婦からプレゼントされた書斎も構えていたという。
クーデターを起こしたナポレオン3世と対立して亡命したフランスのビクトル・ユゴーが、15年間暮らしたイギリス領ガーンジー島の「オートヴィル・ハウス」。コレクターでもあった作家が自ら内装を手掛け、赤を基調にしたそのサロンは、まるでお城のような絢爛豪華さだ。
でも、文豪といわれる人々がみな豪邸に住んでいるわけではない。幼い時に父親が失踪、母親も病死して養子となったエドガー・アラン・ポーは、長じて雑誌編集者として働きながら小説や詩を発表するが、生活が苦しく各地を転々。最後の住居となった木造の小さなコテージが今も保存されている。また、「不思議の国のアリス」の著者であるイギリス人作家ルイス・キャロルは、母校であり、卒業後も残って数学講師として教壇に立ったオックスフォード大学クライスト・チャーチ・カレッジの学寮に65歳で亡くなるまで住み続けた。「不思議の国のアリス」は、子供好きだったキャロルが学寮長の娘のアリスにクリスマスプレゼントとして贈った物語がもとになっている。
その他、今年没後400年を迎えた劇作家ウィリアム・シェークスピアの生家、宣教師をしていた両親の赴任地・中国で育ったパール・S・バックが幼少期を過ごした南京の鎮江市のレンガ造りの家(写真③)、「嵐が丘」のエミリーなど姉妹3人が作家となったブロンテ家が暮らしたイングランド・ヨークシャー地方ハワースの牧師館など。世界の文豪40余人の創作の現場を巡る。
ブロンテ姉妹のように作品には、作家が生きた場所の空気や環境が色濃く反映される。作品が生まれた背景を知ることができれば、名作をより深く味わえることだろう。(エクスナレッジ 1600円+税)