「自分がワクワクしないと他人はワクワクしない」に納得
「古市くん、社会学を学び直しなさい!!」古市憲寿著/光文社新書/2016年11月
マスメディアで強い発信力を持つ若手社会学者の古市憲寿氏が、小熊英二氏、上野千鶴子氏、宮台真司氏ら12人の社会学者とのインタビューをまとめた本である。12人の社会学者が先生で、古市氏が生徒役という体裁になっているが、実態は古市憲寿という師の掌の上で12人の社会学者が踊っているという感じだ。こういう遊び心のある本を作ることができるのが古市氏の天賦の才能と思う。
内容的には大澤真幸氏との対談がもっとも興味深い。
〈古市 (社会学者の)関心が細分化してしまっているから、なかなか発信するのが難しいんでしょうか。
大澤 それはそうですね。でも、それ以前に、まず自分が楽しいかどうかが決定的に重要なんですよ。つまり自分がワクワクするようなことでなければ、他人がワクワクすることは絶対ありませんから。自分が面白いと思ったけど、他人が面白く思ってくれないことはたくさんあります。でも、自分はつまらないけど、他人が見たら面白いということは、まずないんです(笑)。だから、自分もそれを知ったことによって、本当に驚いたり、納得したりとか、そういう気持ちで研究をしているかどうか。そういう気持ちがなければ、人を深く納得させる発信なんてできないんです。〉
学者が自分がワクワクするようなことでなくては、他人がワクワクするようなことは絶対ないという大澤氏の指摘は真実と思う。出版界はこの十数年、構造的な不況に悩まされているが、その最大の原因は、著者が自分が面白いと思っていない事柄について本を書いているからと思う。古市氏や大澤氏の作品が世の中で広く受け入れられているのは、常に自分がワクワクするテーマについて扱っているからだ。
ところで、アカデミズムも論壇もねたみややっかみが渦巻く世界だ。古市氏のような優れた才能を、学界の権威が自覚的もしくは無自覚な嫉妬心から潰しにかかってくる危険がある。もっとも12人の社会学者を味方に付ける外交力を古市氏はもっているので、そう簡単に潰されることはないと思う。★★★(選者・佐藤優)