「寝るヤツはバカ」を真っ向否定する睡眠指南書
「スリープ・レボリューション」アリアナ・ハフィントン著/本間徳子訳(日経BP社 1800円+税)
東大の寮に入り浸っていたことがあるが、東大生に共通していたのは、ストンと眠りにつき、長時間寝るということだ。と思っていたら、東大出身の堀江貴文氏も毎日8時間寝ると発言している。その一方、会社では同僚や先輩が「4時間しか寝ていない」や「もう3徹だよ」と自慢めいた発言をするのを聞いてきた。こういった発言を聞くと「寝るヤツは無能だ」「寝るヤツは頑張りが足りない」といった気持ちにさせられたが、本書はその姿勢を真っ向から否定する。
「とにかく十分な時間寝なさい。その方が圧倒的にパフォーマンスはいい」
これが主張であり、寝ることに対する罪悪感を除去してもらえる。本書はニュースサイト「ハフィントンポスト」を立ち上げた著者がいかに睡眠が重要かを数々の証拠とともに記した書である。かつてあまりの激務により、十分な睡眠時間を確保できなかった著者が睡眠の重要性にいかに気づくかまでが冒頭では描かれる。
また、睡眠時間の足りない人間が巻き起こす交通事故や、米大統領選での判断ミスを述べてその危険性を説く。睡眠時間が足りないとデブになるといった話や、睡眠薬がもたらす弊害などについても詳しく紹介し、睡眠豆知識満載だ。
最近、私は悪夢をよく見る。日々大量の原稿を編集しているだけに、その悪夢の内容はいつも膨大な量の原稿を夢の中で編集しているというもの。ネットも辞書もない中、その原稿が正しいか否かを夢の中で判断し、赤字を入れていく悶絶の夢である。しかし、悪夢は悪くないという。
〈夢という安全な空間で危険な状況のリハーサルを行うことができ、それによって、実生活の脅威に対応するスキルを身につけたり、あるいは恐れるに値しない脅威だと判断したりできる〉
グーグルの創業者の一人、ラリー・ペイジが夢に出てきた「ウェブを丸ごとダウンロードする」という描写から検索システムのヒントを得たという話や、裁縫用のミシンを発明したエリアス・ハウは、処刑される夢で槍の先端に穴が開いているのを見て、ミシン針の穴を先端にすることを思いついた話も登場。と考えると、寝ることはアイデアの源泉にもなるではないか! よく寝ると優秀になれるのだ!
後半では、宿泊客の睡眠の質を重視する世界中のホテルの具体名とその特徴・サービスを挙げたり、マットレスにこだわるべきと提唱するなど、付録的な要素も充実している。★★
(選者・中川淳一郎)