「東京エレジー」太田和彦著
JR田端駅は山手線の終点だそうだが、南口は利用客も少なく寂しい。昔訪ねた北口の居酒屋「初恋屋」に行ったら経営者が代わっていた。肌寒いので燗酒と刺し身の〈まぐろブツ・青柳〉セットを注文した。ご飯だけの軍艦巻きが1つ付くのがお約束で、それに刺し身をのせて食べる。屋号のように自分にも初恋があったことが不意に表れて心を奪う。初恋の人と暮らす人生もあったかもしれないとも思うが、人生の大半はもう終わり、今は田端の居酒屋でひとり酒を飲んでいる。(「春・田端」)
〈居酒屋エッセーの達人〉が、阿佐谷、日暮里、千駄ケ谷など、ゆかりの街を歩きながら思い出を語る。(集英社 1500円+税)