東京マラソンは江戸の参勤交代とそっくり
「『参勤交代』の不思議と謎」山本博文/監修 実業之日本社 800円+税
トップ選手ばかりテレビに映るが、東京マラソンを楽しむなら終盤の仮装ランナーを見物するのも楽しい。背中に「愛媛」と書かれた全身オレンジタイツに頭にはミカンのかぶり物をしたランナーに続いて、元気なりんご集団、大阪の通天閣、北海道の牛乳パックが走り去っていく。その後方にシッポをバタバタと振りながら走ってくる着ぐるみが……あれは高知のカツオではないか。
今年はコースが変更になってしまったが、私の暮らす築地は魚に優しい。「カツオ、がんばれー!」と声援が飛び、カツオも手を上げて応えている。東京マラソンは、地方の特産品や観光を紹介する新しいPR手段なのかもしれない。
この東京マラソンと参勤交代がぴったり重なるから面白い。
加賀藩は4000人の大行列を組んで財力を見せつけ、「伊達男」の語源となった仙台藩はやりに白鳥の羽飾りや猿毛の飾り盾という奇抜かつ豪華な衣装や道具で現れ、幕府も江戸の庶民も驚いた。時には琉球王国や長崎の出島で暮らすオランダ人も民族衣装で登場し、大いに盛り上がったという。参勤交代は各藩の特色や力を示す絶好の機会だったのかもしれない。
そして、将軍へは各藩お国自慢のお土産を用意。彦根藩は牛肉の味噌漬け、薩摩藩は琉球紬。東京ではカツオが走っていたが、土佐藩は江戸の将軍にカツオ節を献上したらしい。地方の特産物が江戸に集まり、その情報はまた地方に流れていく。
幕府に忠誠を誓い、散財する参勤交代は内心、腹立たしいが、どうせなら江戸城内を年に一度のランウエーと割り切り、お金をかけたのだろう。その裏では宿泊や食事、人夫の手配、通行する藩への挨拶や手土産など、遠い藩では1カ月に及ぶ長旅を、経費節減に頭を抱えながら家臣がコーディネートする。今も昔もサラリーマンの苦労は変わらないが、藩同士の付き合いやPR方法、お金のかけ方など参勤交代から学ぶことはたくさんあると思わせる一冊だ。