労働力を使い潰す体育会系経済に未来はない
学生に違法や不当な労働を強いて使い潰す「ブラックバイト」問題。2013年ごろから少しずつ表面化し、大学の学生課などでも注意喚起の張り紙が見られるようになっている。一方で、日本社会全体の貧困化が、ブラックバイトの構造をより複雑にしているという現実もある。
大内裕和、今野晴貴著「ブラックバイト[増補版]」(堀之内出版 1800円+税)では、最新のブラックバイト動向について、実例を挙げながら、その問題点を詳しく解説している。
ブラックバイトのパターンはさまざまだが、その実態は過酷を極める。大手アパレル店でアルバイトを始めたAさんは、週70時間以上の長時間労働を強いられ、シフト変更を頼んでも「自分で代わりのバイトを探してこい」と受け入れてもらえなかった。大手牛丼チェーンで働くBさんは、働き始めてわずか7日で、ひとつの店舗の接客・調理・清掃のすべてをたったひとりで行う、いわゆる「ワンオペ」(ワン・オペレーション)を命じられた。大手コンビニ勤務のCさんは、オニギリの並べ方が悪いというだけで、オーナーから数時間にもわたる恫喝を受けていたという。
そんなひどいバイトなど辞めればいいと大人は思うが、上昇する大学の学費と反比例して、90年代以降、親世代の年収は減少に転じている。学費や生活費を自分で稼がなければ生活を維持できない学生も多く、ブラックバイトでも“辞める”という選択へのハードルが高くなっているのだ。
本書では、親世代の認識の誤りについても指摘している。現代のブラックバイトの実態を知らず、「もう少し頑張りなさい」「いい社会経験になるから」などという精神論を述べた結果、体を壊して大学を辞めざるを得なくなったり、過労自殺に至った悲痛な例もあるという。
次世代の労働力を使い潰す「体育会系経済」に未来はない。2015年12月からは、事態を重く見た文科省と厚労省がブラックバイト対策に乗り出している。
労働問題であり社会問題であるブラックバイト。まずは大人たちが認識をあらためなければならない。