「夜の谷を行く」桐野夏生著
主人公は、若き日に連合赤軍に加わり、逮捕された経歴を持つ西田啓子。群馬の山岳地帯で行われた「総括」という名の集団リンチから逃げ出したひとりだったが、その経歴のせいで家族や親戚から距離を置かれ、目立たないようにひっそりひとりで暮らすようになっていた。
しかし、元メンバー・熊谷千代治からの突然の連絡や、最高幹部・永田洋子死刑囚死亡のニュースを契機に、忘れたかった過去が浮上。姪の結婚式や東日本大震災という未曽有の出来事、かつての結婚相手・久間伸郎との再会、取材を申し込んできたライター・古市洋造の登場などによって、啓子は過去と直面せざるを得なくなるのだが……。
本書は、45年前にメンバー同士の凄惨なリンチで12人の死者を出し、世間を震撼させた「連合赤軍事件」を題材にした長編小説。リンチの現場に居合わせることになった主人公が封印してきた過去の真実が次第に明らかにされていく。思いがけない結末を迎える最終章まで、一気に読める。(文藝春秋 1500円+税)