「たべもの芳名録」神吉拓郎著
往年の人気作家(94年没)による食エッセー。
春のある日、家人が電話で話す内容から、心待ちにしていたことがついに実現することを知る。知人の奥さんが、手製の五目ずしを持って我が家に向かっているというのだ。北海道生まれの奥さんのサケが主力だというそのすしの話題から、デパートの名産展で見かけたスペインの職人の話や、内田百閒の随筆で読んで以来、一度は食べてみたいと思っている岡山のすし、そして祖母のすしまで話が展開しながら、すしを恋しがる気持ちをつづった「鮓が来そうな日」。
他にも、少年時代の潮干狩りの話から碁が好きだった父、いろいろな貝の食べ方にまで発展する「ヒヨシガリの海」など、味わい深い文章でさまざまな角度から食についてつづる。(筑摩書房 740円+税)