「最後の辺境」水越武著

公開日: 更新日:

 その厳しい環境ゆえに人間を寄せ付けず、穢れのない豊かな自然が残る地図上の空白地帯を求めて、世界各地を旅してきた写真家による新書版フォト紀行集。

 幼いころから山に目覚め、本格的登山に取り組んできた氏は、やがて氷河を抱く海外の高い山に憧れるようになり、ヒマラヤの西に位置する山岳氷河の聖地ともいえるカラコルム山脈を目指す。当時、全長72キロと世界で最も長い山岳氷河シアチェン氷河をはじめとする5つの巨大な氷河を巡る計画を温め、1979年、長年夢見てきたその旅が実現する。

 同じヒマラヤでも、ネパールなどと事情は異なり、カラコルムへの山行は砂漠の長いキャラバンの後に、流出した氷河の末端から遡行して山に近づかなければならない。

 日本を出て半月後に、登山の玄関口スカルドに到着。シガール谷からいよいよ登山が始まるが、ひとつ目のチョゴルンマ氷河からヒスパー氷河へと向かう4990メートルの峠越えの手前で、荷物を運ぶポーターに夜逃げされてしまう。

 一行は、サポート隊との合流地点まで、最小限の荷物だけを持って自分たちだけで移動。5000メートル級の峠を越えると、そこにはヒマラヤに存在するとは信じがたい巨大な雪原スノーレイクが広がっていた。

 まさに神々の住むところとしか思えない、ほとんど氷と雪に閉ざされた世界で、4カ月をかけて、5000メートル級の峠を4つ越え、途中7422メートルの「シア・カンリ」への山頂アタックも成功させて、5つの氷河を踏破した冒険を、美しい写真とともにたどる。

 1995年には、北極を囲むように広がるツンドラ地帯を目指し、極地の森林限界の撮影という名目でアラスカの北極圏の東西1000キロに延びるブルックス山地へ。チャーターした小型機で分け入った荒涼とした大地の、周囲200キロには自分たちしか人間がいないという状況の中で、グリズリーにおびえながらも狼などの野生動物と交歓しながら過ごした1週間のキャンプ生活を述懐。

 他にも、現地の人も足を踏み入れたことがない太古の自然が残されているコンゴ共和国ンドキ川流域の熱帯雨林、地上最大にして最深の淡水湖であるロシアのバイカル湖、豊かな植生と赤道直下ながら山頂部には氷河を抱くスタンレー山塊のコンゴ川とナイル川の分水嶺にあるルウェンゾリなど、時に政情不安などで命の危険にさらされながら敢行した8つの旅を収録。

 IT技術で、いまや家に居ながらにして世界中を旅できる時代にあって、今なお、人間を寄せ付けぬ場所も多く、貴重な写真の数々にあこがれとため息が出る。(中央公論新社 1050円+税)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    大谷の今季投手復帰に暗雲か…ドジャース指揮官が本音ポロリ「我々は彼がDHしかできなくてもいい球団」

  3. 3

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  4. 4

    フジ反町理氏ハラスメントが永田町に飛び火!取締役退任も政治家の事務所回るツラの皮と魂胆

  5. 5

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  1. 6

    “下半身醜聞”川﨑春花の「復帰戦」にスポンサーはノーサンキュー? 開幕からナゾの4大会連続欠場

  2. 7

    フジテレビ「中居正広氏に巨額賠償請求」あるか? 「守秘義務解除拒否」でウソ露呈

  3. 8

    今田美桜「あんぱん」に潜む危険な兆候…「花咲舞が黙ってない」の苦い教訓は生かされるか?

  4. 9

    Kōki,『女神降臨』大苦戦も“演技”は好評! 静香ママの戦略ミスは「女優でデビューさせなかった」こと

  5. 10

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ