著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「少女は夜を綴らない」逸木裕著

公開日: 更新日:

 同級生全員に毒を飲ませて殺す、と加奈子が言ったので、その毒を加奈子のジュースに入れたら、それを飲んだ加奈子が屋上から落ちて死ぬ。理子が小学6年のときだ。すると、その3年後、「あなたは姉を殺しましたね」と中学の部室を訪ねてきた瀬戸悠人少年が言う。それが82ページ。そこまでもいろいろなことがあるのだが、すべて割愛。このあと、どうなっていくと思いますか。おそらくあなたの想像はすべて外れるに違いない。思いもしない方向にどんどんズレていくから快感だ。

 逸木裕は前作「虹を待つ彼女」で横溝正史ミステリ大賞を受賞した作家だが、そのデビュー作は素晴らしかった。人工知能の試作品のモデルに、数年前に自殺した美貌のゲームクリエーターを選び、彼女がどういう人物であったのかを調べていく「だけ」の小説だが、最後に立ち上がってくるヒロイン像が圧巻であった。

 今回は、殺人計画にのめりこむ少年少女を描く青春ミステリーで、前作とは違うテイストだが、収束のうまさは同じ。広げるだけ広げて腰砕けの小説もあるけれど、逸木裕は物語の着地の仕方が群を抜いてうまい。

 瀬戸悠人の造形に見られるセンスのよさが特筆ものだが(これは前作もそうであったので天性のものなのだろう)、物語がどこへ向かっているのか読者に見せないテクニックも秀逸。ラストの1行もすてきだ。(KADOKAWA 1400円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…