「夏の祈りは」須賀しのぶ著
県立高校の野球部を舞台にした連作集である。おやっと思うのは、その構成だ。全5話が収録されているが、1988年の第1話から始まって、ほぼ10年おきの話になっているのだ。ただし、2017年を描く第4話と第5話は正編と続編の関係にある。
同じ高校野球部を舞台にしながらも10年おきというのは、登場人物がだぶらないということだ。各話の県大会で活躍した選手たちのその後を知りたくても、物語に再登場することはないので、私たちは彼らのその後の人生を知ることがない。時折、あのときのエースはその後プロに入ったらしいと伝聞で語られるだけである。
こういう構成のために、物語に奥行きが生まれていることに留意。高校球児にとってはただ一度の夏であっても、その「ただ一度の夏」は毎年訪れる、という真実がここから浮き上がってくる。
登場人物は再登場しないと先に書いたが、例外が第4話、第5話の監督香山始だ。彼は第1話のときは現役の野球部員で主将だった。それから30年後のいま、他校の監督を経て母校、埼玉県立北園高校の監督に就任し、最終話が始まっていく。北園高校は県大会準優勝がこれまでの最高成績で(香山が現役のときはベスト4だった)、まだ県大会で優勝したことがない。はたして香山率いる北園高校は、県大会で優勝できるのか、甲子園出場という悲願は達成できるのか。こうして2017年の埼玉県予選が始まっていく。
(新潮社 520円+税)