「巨大建築の美と技術の粋 世界の橋」マーカス・ビニー著 黒輪篤嗣訳
古代から現代にいたるまで、ありとあらゆるものをつないできた世界各地の名だたる250橋を紹介する豪華大判写真集。
世界で最も古く、最も構造が単純な橋は、大きな板石を1枚、または複数枚、架け渡した「継ぎ石橋」だそうだ。起源は有史以前にさかのぼるといわれているが、現存するのは中世に造られたもので、そのほとんどはイングランドにあるという。そのひとつサマセット州の国立公園内にある「ター・ステップス」は、砂岩の板石17枚からなり、全長55メートルに及び、素朴ながらも長い歳月に耐えてきた風格をたたえる。
古代ローマ人によって土木技術は飛躍的に進歩。強度と耐久性を備えた石造りの半円アーチが登場し、石材の接合材として天然セメントの使用が始まる。
大戦中、ナチス軍の破壊から奇跡的に免れたイタリアの「ティベリオ橋」や、スペインの「セゴビアの水道橋」など、建設当時のままの姿を今に伝える古代遺跡にその技術の高さがしのばれる。
一方、中国の広東省にある南宋時代の「広済橋」は、建設当時は船を係留する桟橋だったが、徐々に両岸から橋脚が増やされ、200年をかけて、24の橋脚と18隻の船を係留できる浮き橋で構成された橋になった。
それぞれの橋脚の上には立派な東屋や商店が設けられ独特の景観をつくり出している。
ルネサンス期に造られたフランスの「シュノンソー城橋」(写真①)は、もともとは庭園と城を結ぶ遊歩道に2階建ての回廊が付け加えられ、橋そのものがもはや城に見えてしまう圧巻の橋だ。
その他、イスラム建築の粋を集めたようなイランの「ハージュ橋」(写真②)、フランスの国王付の建築家が率いる「土木技術団」が手掛けた橋など、歴史を振り返りながら各時代、各地域の橋を紹介。
19世紀になると、橋の形態、構造は一変する。鉄と鋼鉄が登場したからだ。鉄は長大な橋の建設を可能にした。一方で石とレンガの建造物も巨大化していく。
世界で初めて主要な部材に鋼鉄を使った上下2層の大型の橋であるアメリカ・ミズーリ州の「イーズ橋」や、ポルトガル・ポルトのドウロ川に架かる「ドン・ルイス1世橋」など、その構造美にほれぼれ。
そして、現代。アルゼンチン・ブエノスアイレスにある「ムヘール橋」は、美しさもさることながら、39度で傾いた針のような塔とともに、長さ100メートル以上の橋桁が2分もかからずに旋回して船を通す可動橋だと知り、驚かされる。一方、ノルウェー・オスロの「レオナルド橋」(写真③)は、もはや彫刻作品。それもそのはず、レオナルド・ダビンチが1502年に設計したが当時は建設されなかった橋を実現したものなのだとか。
次から次へと登場する個性的な橋に、圧倒される。まるで世界中を旅している気分。橋がこれほど面白く、魅力的なものだとは。買うのには躊躇する値段だが、それ以上の満足を与えてくれるお薦め本。
(河出書房新社 6800円+税)