若き頃の活躍と死の直前インタビューの格差
「テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅」児玉博著/小学館 1500円+税
最近では「サザエさん」のスポンサー降板など、東芝をめぐっては暗いニュースがもう何年も続いている。東芝といえば、新社長就任の発表の席で会長(西田厚聰氏)と社長(佐々木則夫氏)が罵り合う姿を新社長である田中久雄氏の横で見せたり、それから数年後、社長であるにもかかわらず会見で「相談します」と情けないことを言うオッサン(室町正志氏)が出てきたりするなど、もはや末期症状である。
本書は、東芝の“壊滅”の原因のひとつともされる米原子力発電関連企業・WH(ウェスチングハウス)の買収を主導した西田氏(当時社長)の人生を描きながら、東芝が凋落するまでを描く。
多くの人は東芝関連のニュースを見た場合に、「責任のなすりつけをしやがって」「“チャレンジ”ってなんだよ(苦笑)」「社長に当事者意識が足りないな」などと思うのではなかろうか。それと同時にこうも思うだろう。
「なんであの東芝がこんな状態になった……」
「あの時、東芝に入った友人が羨ましかったけど、入らなくてよかった……」
本書の前半は、若き西田氏がイランで中途採用され、その頭脳明晰さからメキメキと頭角を現す話に始まる。続いては撤退も考えた欧州市場でパソコンを売りまくり、やがては世界初のラップトップPCを開発し、さらにはdynabookで世界シェア1位を獲得するなど華々しい同氏の活躍と東芝の上り調子ぶりが解説される。
後半は名誉欲にまみれた西室泰三氏、不正会計のやり方を過去に開発した田中氏、まったくリーダーシップを発揮しない室町氏ら歴代社長に批判的な論調が続くが、西田氏との激しい確執を見せた佐々木氏への描写は手厳しい。経済財政諮問会議の議員になった佐々木氏についてはこうある。
〈居並ぶ閣僚や官僚、経済人を前に滔々と持論を述べている自分自身に酔ったはずだ。さしたる勉強もしていない佐々木の意見に聞くべきものはなかった〉
かといって佐々木氏の“敵”たる西田氏を擁護するわけでもない。最後の西田氏のインタビューを見ると、若き日のイランや欧州、米国でのはつらつとした様子は失われ、「憎しみを抱き続ける老人」のようになっており、気が抜けてしまうかもしれない。
西田氏は12月8日に急性心筋梗塞により逝去。その直前、10月5日に著者は西田氏の自宅で3時間のインタビューを行っている。合掌。
★★半(選者・中川淳一郎)