「絶滅危惧職、講談師を生きる」神田松之丞著 聞き手/杉江松恋
落語人気は高まっているのに、講談は演者もファンも減る一方の滅びかけの芸。そんな講談界に飛び込み、ひとり気を吐いている若手男性講談師がいる。神田松之丞。彼はなぜ講談師を志し、何を目指しているのか。演芸ファンの文芸評論家、杉江松恋のインタビューに答えて、思いの丈を語っている。
本名・古舘克彦。1983年、東京・池袋の生まれ。芸能には無縁の家だった。9歳のとき、会社員だった父が自死。鬱屈した心を抱えて思春期を過ごす。やりたいことが見つからず、何をやっても続かない。「俺は違うぞって主張しているだけの痛い子」だった。 そんな彼を覚醒させたのは、高校時代に出合った落語だった。中でも立川談志に心酔した。予備校時代から大学の4年間、寄席や演芸場に通いつめ、客席から古典芸能を聴きまくった。将来プロになると決め、プロの芸をひたすら聴いて素養を蓄えた。観客としての感性にも磨きをかけた。大学の落語研究会に入るなどはもってのほか。しろうと芸を身につけたって意味はない……。このオリジナルな発想と修業法が、後に花開く土壌になった。
そして講談に出合う。敬愛する談志が推す講談師、6代目神田伯龍を初めて聴いたとき、魅力が全然分からなかった。それでも高座を聴き続けた。おいしくないからこそ食らいつき、咀嚼し、ついにはこの絶滅危惧職に将来を懸けようと決意。大学卒業後、日本講談協会の重鎮、神田松鯉への入門を果たす。5年後に二ツ目に昇進し、今、もっともチケットが取れない講談師といわれている。
根拠のない自信、徹底したプロ意識、現状打破への志。堅苦しい講談界では型破りだからこそ、神田松之丞は、この伝統芸を絶滅から救うキーパーソンとなるに違いない。
(新潮社 1500円+税)