「猪・鹿・狸」早川孝太郎著
大正15(1926)年に刊行された民俗学の名著の復刻。愛知県南設楽郡長篠村横山(現在の新城市)に生まれ育った著者が、自らの体験と、古老から聞きためた猪・鹿・狸にまつわる逸話を紹介する。
幼いころ、父が遠出して留守の夜中、狩人が小猪(こぼう)を撃ったが家まで運ぶ道具がないと、背負子を借りにきたことがあったという。当時の狩人や猟師のそんなエピソードから、腹痛の妙薬として珍重された猪の胆や、冬の早朝、何千という鹿の群れが山の峰を目掛けて走り去っていくのを見たという杣(そま=林業従事者)の話、誰かが忘れた鍬を使って大男に化けて通行人を通せんぼする狸など。伝説や昔話を交えながら、山里の暮らしを書き残す。
(KADOKAWA 1000円+税)